ハルは、パイロットになりたいと思っている。大空、宇宙を自由に飛び、敵と戦うメイフィンに

 乗りたいといつも思っている。戦闘経験のあるパイロットの話を聞くのが、仕事中唯一の楽

 しみでもある。
 しかし、今日の客には、戦闘経験のあるパイロットはいなかった。今の男もそうだ。
 一通りが済み、最後にシャワーを浴びていると、男は泣いた。こういう男は多い。
 するとハルは優しく抱いてやり、言うのだ。
「本当は……誰も行って欲しいなんて思ってないの。帰ってきてね」と。
 男は本当は恐がりで、こうして慰めてやる者がいないと、戦いにすら行けない者が多い
 んだと、ハルは思う。そのくせ威張りたがることも、ハルは良く知っている。
 実際、戦場に出ているのは男が多い。古来の風習もだいぶ変わってきてはいるが、未だ
 に戦場は男の物らしい。
 今日最後の客は、エレベーターも一緒に乗り、店の入り口まで見送った。別れる前に、
 名前を聞かれる。
「えっと……。ヒカリっていいます」
 源氏名を言うが、相手はそう気付かずに挨拶をして、戦場へと行くのだ。また会いに来
 るよと行って、来た客は今日まで一人もいない。

 縛っていた黒い髪をほどき、鍔広の帽子を目深に被り、ハルは帰路に就く。
 色白の肌を隠すように、やや暑くなり始めた季節にも関わらず、ハルは長袖のワンピー
 スを来ている。端から見れば、色のない女学生に見えるだろう。
 実際、ハルはあまり色気がない。おそらく、ハルを抱いた男が昼間の彼女に会っても、
 ハルと気付く者はあまりいないだろう。
 アパートの自室に付くと、ゆっくりと風呂に入る。白い自分の腕を見ながら、ハルは思 う。
 わたしも、いつかは宇宙に出て、この手でメイフィンを動かしたい。と。

 この仕事が嫌になったことはない。汚い仕事と思ったことは何度かあるが、気にしない。
 男を好きになったこともなければ、なる人の気も、良くわからない。いつからそう思うのかは

 ハルも知らないが、とにかく、ハルはそう思っていた。
 命を作り出す行為をした後、命を消す行為に赴く――この矛盾のやり取りの一端を担う
 自分は、一体何者なのだろうかと考えることがある。
 それは兵士もきっと同じだ。ハルは考える。
 創造の神は同時に破壊の神でもある。ハルはそれで納得する。人間とは、所詮そういう
 物なんだと。
 自分は母親にはならないと思っている。自分には、子供に伝えることは何もないと思っ
 いるからだ。
 長い風呂から出ると、ハルはベッドに倒れるようにして寝る。
 彼女の見る夢は、決まって真っ暗の宇宙だ。


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