春
ずどんという鈍い音がすると、それに間髪を置かずに船体が大きく揺れた。
「あうっ!」
ハルはバランスを崩し、倒れてしまった。
「う……く」
起きあがってあたりを見ると、数カ所で火が燃えていた。今のは敵からの攻撃なのだろ
う。
燃える火を見て、ここが戦場だと認識することができた。
「こ、ここが……戦う場所なんだ」
声は震えていた。それは、恐怖による物ではない。何か、ハルの渇望していた何かが満た
されるような……そんな震えだった。
ハルはいても立ってもいられなくなった。周りでは消火活動が行われ、罵声が飛び交うよう
になっていた。そんな中でハルは一人、震える体を抱きしめて立っている。
すると、今度は下から突き上げるような振動が起こった。
「どうした!」
「下部重力制御に引火です! これ以上の高度維持はできません!」
――つまり墜落するということか。ハルはぞくぞくした。
――そう。これは演出。
僕はね、キミを待っていたんだ。
「だ、誰?」
ハルは後ろを振り返ってみるが、誰もいない。それどころか、皆はハルなどそこにいない
ように消火活動やら避難やらであわただしい。
ママがね、僕は自分で、パートナーを見つけろっと言ったんだよ。
キミは僕のパートナーになれるよ。
一緒に行こうよ。キミが夢に見た、真っ暗な宇宙。広大な戦場へ!
「戦場……宇宙!」
ハルが走り出した刹那、ブチンという音がした。目の前の巨大な「何か」を固定していた
ワイヤーが切れ、大きく傾いたのだ。それに伴い、船体も傾く。
ハルはバランスを崩し倒れそうになったが、それでも走った。
呼んでいる。目の前の何か、わたしを、わたしの一番行きたい場所へ連れて行ってくれるんだ!
「あ、おい! キミ! どこへ行くんだ!」
ハルの行動に気づいた整備員が叫んだ。
「呼んでるんです! このメイフィン、きっとわたしを必要としているんです!」
「それはまだ動かないぞ! それに、キミみたいな素人が乗ったら死ぬぞ!」
「死んでもいいんです! わたし、いつ死んでもいいんです!」
ハルは自分でもわからない、でもいつも思っていたことを口走りながら、目の前の、メイフィン
だと思えるそれに向かった。
側面に、コクピットハッチのようなものがあり、それは微かに開いているようだった。
取っ手のような部分に触れると、ハッチは開いた。中は真っ暗だ。
ハルの耳に、周囲の雑踏は入らなくなった。
中に一歩踏みいると、後ろでハッチが閉まった。そして、薄くて赤い証明がつく。
