春
飛んでくるミサイルを、ハルは数えた。
全部で、十五発だ。モニターにはミサイルの弾道予測が描かれ、赤い輪が付く。
「レウールさん、わたし、何か、打ち落とせそうなんですけど」
『やれるものならやってみろっての!』
「はい」
右の親指の操作で、武器を切り替えできるらしい。ハルの体は本能的に動いて上部レー
ザーファランクスをアクティブにする。
攻撃目標全十五は、すでにロックされている。ハルが中指を引くと、黄色い線がパパパ
ッとミサイルに伸びる。そして一瞬間後、ザムティールがミサイル群に接触する寸前でミ
サイルはすべて迎撃された。
「オートで動いた! わたし、一つも狙ってない!」
『ハル!』
「全部オートです! わたしは狙ってないんです!」
『それが問題なんだよ! 自動照準はVGTS制御なんだ。VGTSがおまえに反応する
のはどうしてかってことなんだよ!』
「ブイジーティーエス? 何ですかそれ?」
『……ったく。いいよ。後でゆっくり説明してやる。おまえは天才かもな。ほら、まだ一
隻残ってる。ティーアが取り付いてるけど、最後の一発が来そうだぞ』
「わ、わかりました。あ、あれ……?」
モニターの中に、敵は感じることはできる。が、味方は感じられないことに気付いた。
ザムティールは、真横に視認できるから良いが、レウールの言っているティーアはまっ
たく感じられない。
『ん? どうした?』
「あの、敵はわかるんです。味方のみなさんがよくわからないんです」
『敵がわかるだけでも大したものだよ。そいつはまだ試作段階なんだから。辛うじて動け
るっていう程度なんだぞ』
「そうなんですか? でも、きちんと動いてますよ。敵にも、当てましたし」
『それはおまえの実力じゃないのか。悔しいけど、そう思うよ』
「悔しい……ですか?」
『ボクだって、天才って言われてるんだぞ。撃破数三桁のエースだしな』
「三桁……。それ、すごいですね」
『そんだけ殺してるってことだぞ?』
「わたしも悔しいです」
『はぁ?』
「だって、レウールさん、それだけ自分で戦ったんですよね。わたし、今日が初めてなん
です。今までは、自分で戦ったこと、なかったです」
『変わってるよ、おまえ。頭弱いだろう?』
「学校は、中学校を途中までしかいってないです。でも、本はたくさん読んだんです。で
も、やっぱり、わたしみたいなのは頭悪いんですか?」
レウールは少しうんざりとした。
『どうして?』
「だって、綺麗な仕事、してないです。わたしも、戦争屋をやってました」
『戦争屋ね。体売ってる人が言える言葉じゃないって、思うけど?』
「軽蔑、しますか?」
『どうして?』
「わたし、たぶん、そんなにふしだらじゃないです。でも、そう思われてもって。けど、
お客さんは戦いに行く人だし、わたしにはそれしかできないし。レウールさんがもし、お
客さんで、男の人だったら、きっと少し嬉しくお相手をしてあげらたかもって」
『はぁ? ……おまえ、しゃべり方変だよ』
「そう、ですか?」
と、その刹那、ハルはモニター正面に光を見た。体は反射的に動き、左のペダルを押し
込んだ。アルファランクスは左に急旋回し、敵艦から放たれたビームをかわす。
「あれ、ビームですか?」
『そうだよ。しかし器用だね。操縦経験はないんだろう?』
レウールはため息混じりにそう言った。すると、二人の通信回線にティーアが入ってきた。
『敵主力は撃破。残存部隊は後退ね。で、レウール、そちらのはあなたの判断かしら?』
「いえ、違います。わたしが勝手に。ごめんなさい」
『いい、ハルさん? そのメイフィンはね、アルファランクス=スティンガムっていうの。
パリン所長が作り上げた最新のメイフィンよ。当然、VGTSも搭載してる』
「VGTSというのはなんでしょうか? わたし、頭良くないみたいなんです」
『詳しい説明はできないけど、特殊な装置のこと。特に、スティンガム系に搭載されてい
るそれは誰でも使えるっていう物じゃないの。わかる?』
「あまり……良くは」
『つまりね、アルファランクスは、誰で動かせる物じゃないってことなの』
「でも、わたし、動かしてます」
『変わってるんだよ、この娘』とレウール。
『とりあえず、レボリューションに帰りましょうか。話はそこで』
『そうだね。ハル、編隊は組まなくてもいいから、ボクたちについて来れる?』
「はい」
『よし、じゃあ行くよ』
言うと、右にいたザムティールはくるっと旋回し、いきなりもの凄い速さで飛んで行った。
次の瞬間には、頭上をエレイラが飛び去って行く。
ハルは両足のペダル操作で機体を旋回させた。正面に、空中戦艦が見える。アイラーン
に来ると行っていた、パリンの新造艦だろう。
ペダルを踏み込み、アルファランクスを加速させる。ふわっという浮遊間が一瞬起こり、
ハルは、自分が飛んでいるかのような錯覚を覚えた。
「すごい、わたし、メイフィン動かしてる……。すごいすごい!」
レバーはクラッチを踏むことで、ウイングの制御にも連動させることができる。ザムテ
ィールとエレイラを追いながら、ハルは何度か、アルファランクスをロールさせてみたりした。
