まぁそんな噂もあり、どうやら俺は周囲から「危険人物」とされてしまっている。高校に来ればそんな噂なん
かとはおさらばできると思ったのだけど、無理だった。
しかし、しかしだ。運命ってやつは、逆らうためにあるものらしい。何かをしなければ何も変わらないっての
を、俺は先月何かの本で読んだわけだ。
とりあえずはみんなの印象を変えていくことを目指し、クラスメートに気軽に挨拶でもしてみようという作戦
を決行することにしたのだ。
ちなみに好きなタイプ、女の子の理想像っていうのは、古き良き日本の女性。俗に言う「大和撫子」というあ
れ。凶悪な伝説とかを持っていない、大人しくて控えめが良いな。それで、いつ帰ってくるかも知れないで世界
をほっつき歩いている姉とかと違って、家庭的ってのが良い。自分の二倍くらいあるそうな男をサンドバッグの
ように殴るとかしなくて、穏やかで恥じらいのある、可愛らしい子が好みだ。
そういうカノジョを作るには、まずはこの「危険人物」というイメージの払拭が急務なわけだ。
本当は朝からやりたかったのだけど、登校中に道に迷ったお婆ちゃんを見つけて、案内していたら思い切り遅
刻してしまって、朝からの挨拶計画は没ってしまった。というか、遅刻して教室に入った時、英語の担任に「す
いません、遅刻しました」と丁寧に言ったつもりなのに、なぜか震えながら「り、理由は聞かないからとりあえ
ず座りなさい」と涙目で言われたのには、我ながら酷いと思った。
で、放課後だ。帰り際に昇降口で気軽に「よぅ、またな」とか言ってみようと思う。なるべく、笑顔だ笑顔。
いくら悪人顔だとか目つき悪いとか言われていても、さすがに笑顔で挨拶すればそれなりの好感度は持ってくれ
るはず――と思っていたのだが、現実の厳しさってやつは、ここで残酷さへと華麗な進化を見せてくださいました。
昇降口にいた女子二人組に「よぅ――」と声をかけた瞬間、「ひぃっ」とか短い悲鳴を上げ、外に待っていた
らしい男子の所へ猛ダッシュ。そしてその男子に手を引かれて走って逃げて行ってしまった。
これはへこむ。
うぅー何なんだよちくしょう! 俺ってそこまで悪いことしてんのかよ!? 何もかもこれはあの姉どもが悪い
んじゃないのか!?
声かけて逃げられた先が彼氏だったりとか、情けなさすぎる! というか悪役すぎるぞ俺! あ、やば――じ
わっと来た。泣きそう。さすがに廊下の真ん中で泣くとか無様すぎる。ここは屋上にでも行って一人泣くとしよう。
二階の廊下に来た時だった。グッと涙をこらえる俺が相当に怖かったのか、まだ放課後の賑わいのあった廊下
は、俺が来た瞬間、沈黙。その二秒ほど後、残っていたみんなはサーッといなくなり、俺が廊下に来た五秒後に
は無人になっていた。どんだけだよ俺。もうこのスキルを活用していく方向を考えた方が良いんじゃないか?
ちくしょー。
もう駄目だ。精神的にも相当打たれ強いと思っていたのだけど、いよいよもって限界かも知れない。
屋上へ向かい、歩み出した一歩がやたら重い――そう感じた瞬間だ。
がしゃーん!
