第1話 -起-
俺はいかにもありそうでTVでしかなかったことを初めて経験した。被害は甚大。けど、新鮮で複雑な気持ち。
やはり見るのと経験するのとでは違う。いつもTVでこのシーンを目にするたび『見るとやるとでは違うんだろ
うな』とは思っていたけど、いざとなるとそう思っていたより違っていた。まず、今現在解ったことは、頭の中が
真っ白だと言うこと。 現状が解っているのにどうすればいいか解らない。今現在も天井からにじみ出て床に
したたれている。最初はもっと酷かった。室内なのに雨ふり状態。
――なんでよ……。っていうか……どうしたのこれ。
いやー、びっくりした。今のところ驚き度第2位だね。ちなみに1位は以前住んでたところで鉢植えが落ちて
きたこと。2メートル位後ろだったけど。正直、怖かった。上見ても人気がないし。今のところに引っ越した
理由の一部にこれがあるかも。あまり気にしてなかったけどね。それはそうと、個々が密接していながらも
個人は疎遠であるという不思議なようで今ではそれが当たり前という建物に住んでいる以上、今の状況は
自分でなんとかしなくてはならない。人災であってもこの程度は天災と考えなければ……。
やっとこさ手にぞうきん、まだ漏ってくる水にはバケツを充て(足りないけど)床を拭き始める。拭くというより
は浸すって感じかな、水を吸わせていく。せっせと事態を収束させていると来訪者をつげるチャイム音。
――ああもう、忙しいのにこういうときに限って。
「はいは~い」
といいながらぞうきんをバケツに、濡れた手はその辺で拭いてドアノブを……っとその前に、ちゃんと
確かめねば。勧誘とかだったら煩わしいし。
「はい。どちらさまでしょうか」
「あの、2階の田崎ですが」
ドアを開けて、なんというか、目を見張ってしまった。
「あの、水漏れしていませんか。洗濯機のホースが外れてしまって……」
と言ったかと思うと表情がこわばった。見すぎたかな。ちょっと不自然だったかな俺。 だって、彼女、
もろ好みだったんだからしょうがないじゃないか。
「ああっ、やっぱり酷いことに……っ」
どうやら、俺を通り越して部屋の状態を把握したようだった。俺のことじゃなくて良かった……。
彼女は、ごめんなさい、ごめんなさいと謝りながら、ちょっと失礼しますと部屋に入り、
ぞうきん……あ、これお借りします。とバケツのところにあったぞうきんを見つけて床を拭き始めた。
「ちょ、田崎さん。いいですって床汚いから……」
「ごめんなさい、もう少しで拭き終わりますから」
と言い合ってるうちに彼女は拭き終えてしまった。
こばやく拭き終えたにもかかわらず床はきれいになり
艶まででている。
「床は拭き終わりましたが天井や壁が……」
「いいですって。田崎さんこそ服……」
四つんばいになっていたせいでズボンか濡れた床の汚れを吸ってしまっていた。
「気になさらずに。それより天井とか壁、カビてしまったら言ってください弁償しますので……」
そう言って申し訳なさそうに頭を下げて帰って行った。
――なんだろう。せっかくきれいになったのに、いつもよりきれいになったのに残念な気持ちになるのはなぜだろう。
