第3話 -転-

 人生の正念場。これからが変わるかもしれないオーディション。今までの自分、そしてこれからの

 自分を表現する。できる場所。このチャンスをくれたのは美歩だ。

「なにか修に手紙が来てるよ」
 はいこれ。と嬉しそうで照れてるような表情で差し出してくる。
「んんん、なにこれ」
 手紙の表書きには音楽会社の名前。大手とまではいかないが誰もが一度は聞いたことあるところだ。
 なんだろう……ダイレクトメールかな。手元にペーパーナイフとか、はさみなんて無かったから丁寧に

 端を手でちぎる。中には薄手の紙が一枚。二つ折りで入っておりそこには簡素な文面が記されている。
――え……。
 すぐさま美歩の姿を追ったが美歩はキッチンで洗い物をしているようだった。
「ねえ、美歩これ……」 
 手紙の内容はオーディションの一次通過通知だった。でも、俺は知らない……少なくてもここに応募

 してない。ここは今の俺にはレベルが違いすぎる。
「おめでと。修」
 コーヒーカップを運びながらほほえむ彼女に疑問に思っていたことが氷解する。
「送ったのか……というかなんで合格って解ったの」
 思い返せば手紙を差し出されたときからなんか嬉しそうだった……。
「今日、天気いいからね。たまたまね」
 俺が持っていた手紙をそっと手に取って空に掲げ目元に影を作った。透けて見えたのか。
 彼女のその一連の動作をしているさまは楽しげだった。 そのあと、すぐにオーディションの準備に

 取りかかった。オーディションの日時に時間は少ない。三日後。そして――今。
 合格通知を掲げてみた日のように空は晴れ渡っているのに、それとは反対に俺のこころははれない。
 浩介の言葉が残ってるからだ。
『美歩ちゃんのことなんだけど、彼女、男をトッカエひっかえ変えてる女ってこの辺じゃ、 有名みたいだぜ。

気をつけろよ。』
 んなわけあるか。お前もそんな噂なんざ気にすんなって笑って言ったけど、あれから美歩の顔をまともに

 見れてない。会場の控え室で最後の練習をしていると静かにドアが開いた。美歩が顔をのぞかせる。
「どう、調子は」
「ああ。なんとかね」
 やはり、顔を見られない。
「大丈夫だよ。私が保証する。……って審査員ってわけじゃないけどね」
 でも大丈夫だよと励ましてくれる。どうやら俺が美歩を見れないのは緊張してるからだと思ったようだ。
 美歩の声は明るく優しく前向きだった。こんな俺でも元気が出るくらいに。

                                                次のページへ  結(桐生恭丞 編)