6    宿る命

 砂髪は自分が存在という状態になれることを後悔していた。
「うっ……ううう」
『存在っていうのは自分一人じゃ認識しづらいってこと、知らなかったの? わたしはあなた
の存在を認めない、そう思うだけで、存在なんて希薄になるのよ?』
  動けないほどに希薄になった砂髪に対し、日登美は笑った。
『もう夜魔も呼べないね。苦しいでしょう?』
「こっ……この……悪魔が!」
『その悪魔に子供を産ませたがったのはだれ? 女っていうのはそのためだけに生きてるんじ
ゃないのよ。新しい時代を創るため、いるんだから』
「はぁ……はぁ……くそ!」
  動かなく体に、砂髪は叱咤した。
  日登美が一歩踏み出すたび、砂髪は死という言葉の重みを感じる。
『今夜こそ……注いでもら――!!』
  日登美の表情が急に強ばった。かと思うと、下腹部を押さえてしゃがみ込んでしまう。
『なっ……どうゆうことよ!? 沙紀ね! きっとそう! はうぅ……!』
  ギッと歯をかみしめ、日登美は顔を紅潮させた。
『裏切ったの……由香ちゃん! ううっ……沙紀も……なんて女なのよ!?』
  日登美の憤怒に合わせるかのように、砂髪の存在も薄らいでいった。
「なっなにが……!」
『ふっ……うふふふ! いいわ沙紀。そうなったら死ぬしかないんだから。夜まで待ってあげ
るね……由香ちゃん』
  最後を満面の笑顔で言うと、日登美はすっと手を挙げた。
「ぐぎゃああああ!!」
  同時、砂髪の存在は完全に消え失せた――

 紫煙を立たせる美佐子のわきで、滝雪は眉根にしわを寄せた。
「いかがしました?」
「砂髪が消えおった……」
  滝雪の表情には、悲しみ一つない。代わり、追いつめられたような面もちだった。
  ここは由香たちのいるホテルの一室。美佐子の部屋だ。
「……これで操士もわし一人になってしもうたの」
「悲しそうには見えませんよ、滝雪さま」
「所詮は消えゆく民……そんなところじゃ。さて――」
  滝雪は深く座っていたイスから腰をあげ、カーテンを開けた。
  赤黒い空は日の入りを現し――同時に決戦の時も告げた。
「死ぬのはわし一人でもよいのじゃが……」
  窓に顔を映す滝雪は、どこを見ているのか。
「あなたを予言者として大臣に取り次いだのはわたしです」
「そうさせたのも、詩梳を呼び出したかったわしの欲。すまぬな……。きよるぞ」
  陽は逃げるように、その姿を海へと没した。

 


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